みえこ院長エッセイ
第12回 私がお医者になったわけ


私がこの世に生まれ落ちたときから、私の周りにはお医者がたくさんいた。
しかもそのお医者は皆、町医者だった。
私はお医者の家の中で、お医者に囲まれ、お医者になるのが当たり前と思いながら育ってきた。
祖父母、両親、叔母、大おじ、この家族ぐるみのお医者構成が、私の家族だった。
両親は、元旦以外毎日診療をしていたので、休日はほとんどなかった。
夜間の往診は、祖母・母の担当であった。
外来は毎日たくさんの患者さんであふれ、その診療室の大きな肘掛け椅子にすわる母の肩越しから、じっと患者さんをみる私がいた。
病院の庭や廊下そして暗いレントゲン室は、この上もない楽しい遊び場であった。
祖母は、お医者になるまでに三人の子を生み、母はお医者になってから四人の子を生み、そして子育てをしながら診療をしていた。
両親には欲もなく、贅沢もせず、生活の中に家庭と仕事が完全に溶け込んだ暮らしだった。
私は四人姉弟の三番目。
皆同じような目的をもち、そしてお医者になっていった。
ただ一つ違うのは、この私だけお医者にならなかったこと、否なれなかった事だった。

お医者になれなかったある時期、私は毎朝やってくる空虚な気持ちを漠然と感じていた。
この気持ちはいったい何なの?
今の仕事は、本当の私の仕事ではない。
私は、お医者になりたかったはずだ。
そう感じて、行動をおこしてからの数ヶ月間は、生涯でもっとも真面目に真剣に勉強に取り組んだ期間だった。

晴れて私は医療の道に入り、そしてその後私の家族のように町医者としての一歩をふみ出した。
かつて頭のてっぺんから足の先までひたっていた消毒と薬の臭い、そしてたくさんの患者さんのまなざしの世界に。


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